3 (トレス)…「息の根を止める」?! 2
とりあえずにメシを喰いに行くことにした。 一人が「腹が減った」、と言い出したからだが、他の連中は「いや、銀行が先だ」などと言っている。 俺は「メシを先にしよう」といった。 すると男どもが反発を始めたが、「いや、メシが先だ」と俺は譲らなかった。 ここだけは譲るわけにもいかない。
「メガモール」というフィリピンで一番大きなショッピングセンターでメシを喰うことになった。 ここにはフードコート、つまりレストランが集結している階があるが、値段はかなり高く、他所で喰う値段の5倍から10倍、日本並みの値段だった、という印象が残っている。
オンボロのジープ風の車を運転する男の1人。 後部座席の真ん中に座る俺の隣には彼女がいた。 俺たち2人を挟むようにして男2人が座った。 助手席にも男がいる。 4人男がいる。 ショッピングセンターに着くまで、何事も無かったかのように極力明るく振舞い、笑顔で通した。
「この男ドモをどう始末してやろうか…」 本当は腹も立っているし、恐いし、屈辱的だし、どうにかしてこの場を切り抜けなければならない。 「まずは俺の隣にいるこの男の顔をもっているボールペンで… そして彼女の向こうにいる奴は… 彼女が邪魔だな。 こいつ、やっぱり来なきゃ良かったのに…」
色々考えたが、こいつらを全員始末するのは無理だろう。 俺は喧嘩には慣れていたが、人を殺したことはないので、想像するように上手く行かないだろう。 なにより俺には殺人を犯せるような度胸はない。 「無駄なことは考えまい…」
無事「メガモール」に到着してしまった… フードコートに入ると、案の定、彼女と彼女の「兄弟」達は一番高い食い物を注文した。 俺は食い物を少しとビールを何本か注文した。 そして彼等と談笑し、ビールを注いでやったりした。 そして「ちょっと、トイレに行ってくる」と俺はゆっくり立ち上がった。 彼等はメシと酒と雑談に夢中になって、俺の方はほとんど見ずに、「OK!」とか言っている。
その時彼女が立ち上がり、俺にキスした。 “OK! Don’t get lost” (迷子にならないでね!) 普段は日本語なのに、なぜか英語だ。 大量の食い物を前に少し浮かれていたのか?
彼女は立ったまま、今にも付いて来そうだ。 体中からカッ、と冷や汗が出るのを感じた。 俺は “Yes, of course!” (もちろんだよ!) とできるだけ自然な笑顔を取り繕って、ゆっくり歩いていった。 実際は10mほどだったろうが、何十kmも歩いたように感じた。 後ろには立ったままの彼女が俺をずっと視ていた。
そして俺は「彼等の視界から消えた」、と確信したところで、早歩きで外に向かった。 フィリピン最大のショッピングセンターはやはり広い。 途中何度も迷いそうになった。 シューベルトの歌曲「魔王」のように、急いでも急いでも後ろから追ってくる悪魔に魂を吸い取られそうだった。
やっとショッピングセンターから「脱出」し、たくさん停めてある中でも一番近いタクシーの中に入った。 “Sa airfort, po!” (空港へ御願いします!)