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2006年08月20日

僕が客室乗務員だったときの話 【第1章全文】スチュワーデスのお仕事の流れ

第1章全文

スチュワーデスのお仕事の流れ

「スチュワーデス」って差別?
スチュワーデス」や「スチュワード」は差別用語、と考える人は多い。 スチュワーデスやスチュワードは和訳すると「給仕」となるので使ってはいけない、「フライトアテンダント」または「キャビンアテンダント」と言わなければいけない、と思い込んでいる人は多く、そのように書いてある本も確かにある。 ちょっと「通」になると頭文字をとって「FA」とか「CA」なんて呼んだりする。

「スチュワーデス」や「スチュワード」が差別用語などということは全くない。 「アテンダンド」のアテンド(attend)だって「給仕する」という意味にもなる。

ケチをつけるなら「客室乗務員」という単語ですら問題がある。 「務」という漢字の由来を見れば「危険や困難をおかして進む動作(『漢字語源辞典』學燈社・藤堂明保)」ということらしい。


こともあろうか、外国人の言うことの受け売りか、それともコジツケか判らないが、「スチュワーデスは豚小屋の番人だ」などという説が流布されているようなので、ここで辞書で見つけたスチュワーデスの定義を書いておく。 (出典:The American Heritage® Dictionary of the English Language, Fourth Edition)

その辞書にはこう記されている。
steward:
ETYMOLOGY:Middle English, from Old English stigweard, stward : stig, st, hall + weard, keeper

つまり簡単に言えば「steward」の「ste」の部分は「hall」、つまり「ホール」や「大広間」「玄関」「廊下」「講堂」「食堂」などを指す。 つまり、「豚小屋」などという意味ではない。

もちろん、英単語「sty」は「豚小屋」という意味で用いられる。 しかし、「sty」という言葉の起源も「大広間」「玄関」「廊下」「講堂」「食堂」から派生した言葉。 つまり、養豚場勤務者が「sty」=「hall」を「豚を飼育するための場所」としての俗語として用いられただけ。 本来は「豚」云々とは何の関係のないの言葉だということがよく解る。

結論:スチュワード(スチュワーデス)は元々は「ホールの管理人」という意味。 「豚」云々は全然関係ない。


ただ、色んな呼び方があるだけの話が、最近になって突然、「差別だ! 差別だ!」と言い出しただけ。 過剰反応しているだけのように俺には思える。 最近突然、「『看護婦』は差別用語だ!」などと言い出したのと同じだ。 「看護婦」という単語のどこが差別的なのか、納得のいく説明ができる者はいない。 男なら「看護夫」でも良いのではないか。

ただ、やはりスチュワーデス・スチュワードという言い方は長いので、略称「CA」を便宜上これから使うことにする。 実際、航空業界でも「CA」という略称をよく使う。 しかし、場合によっては解り易くするためにスチュワーデスやスチュワード、という単語を使う。 

また、色々航空業界の専門用語もたくさんあるが、できるだけそんなものは省き、誰もが解るような単語に置き換え、英語の会話も日本語に訳しておく。

キャセイパシフィック航空とは
香港を拠点とする航空会社だ。 当時の就航先は:
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・アジアなら日本を含む約12・3カ国
・中東ならバーレーンなど3・4カ国
・ヨーロッパには6・7カ国
・アフリカは南アフリカ共和国のみ
・オセアニアにはオーストラリアとニュージーランド

○○カ国、とはっきりした数字が判らないのは、いつ就航が中止されるか判らないからだ。 航空会社というのは、儲からない時には就航を簡単に止める。 特に政情や経済が不安定な発展途上国の行き先は変わることが多い。 一時、トルコに行く日本人観光客が多い時にはトルコ便ができたが、同時多発テロの後はトルコもテロのターゲットになり、トルコ便は廃止された。

毎回上司や同僚が違う
またこれから「上司」や「同僚」などいう言葉が頻繁に出てくるが、一般の職場でいう「上司」や「同僚」とは少しイメージが違うかもしれない。 

・この航空会社にはアメリカ・ボーイング社の飛行機と、フランス・エアバス社の飛行機、計2種類を使っていて、一般的にボーイング社の飛行機の方が大きい。 よってボーイング社に乗るCAのほうが多くなる。 またボーイング社の飛行機にも種類が色々あるので、それぞれに乗務するCAの数も違ってくる。
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・そして日本に行く時は日本人CAが多く、インドに行く時はインド人CAが多い。 フランスに行く時はフランス語が話せるCAが乗る。 「台湾経由日本行き」、の場合は北京語と日本語の両方がいる。 行く先々で使う言語が違うので、毎フライト乗る人が違う。

・また、航空会社には「定休日」がないので、何千人もいるCA一人一人のとる休暇の時期が全く違う。

以上のような複雑な条件があるので、毎回勤務する度に一緒に乗務する人が違う。 つまりこの航空会社のCAは毎回「上司」や「同僚」が違うのだ。

「毎回上司や同僚が違う」という点では人間関係は楽、と言えるのかもしれない。 しかし同時に、今回はものすごく仕事がし易いとしても、次の回ではどうなるか判らない、という不安も残る。 この点では他の航空会社はどのようなシステムになっているのかは知らない。

社内言語
この航空会社の共通言語は一応「英語」。 社内報やその他の伝達は全て英語を通じて行われる。 しかし華僑が大半を占める会社なので、「北京語」や「広東語」を母国語とするCAが最も多い。 

社内でも希望者には「北京語」と「広東語」の授業が行われる。 大きく分けると3種類ある:

1.中華圏外出身者のための「北京語」、または「広東語」講習。
2.「北京語」を母国語とする者のための「広東語」講習。
3.「広東語」を母国語とする者のための「北京語」講習。

日本人の俺が取ったクラスは1で、「北京語」と「広東語」の両方を取った。 当時は確か3ヶ月講習で3万円ほどだったと思う。 受講生は両方とも日本人が一番多かった。 

しかし北京語の授業の大半は「発音」だけに費やされ、実際の会話の練習はほとんどなかった。 また、広東語の講師は男で、「女たらし(特に日本人女性に)」丸出しだった。 俺は両方とも気に入らなかったので、途中で辞めた。 他にも日本人受講生や日本人の次に多かったフィリピン人も「気味が悪い」と辞めていった。

他にも多くの受講生が辞めていき、結局両方とも当初の1/10以下になったという。

男女交際の自由
普通の会社では考えられないことだが、社内の男女交際は誰はばかることなく、かなりオープンに行われた。 CA同士、またはCAとパイロットの恋愛や結婚は自由だ。 日本や欧米の職場では、社内恋愛は「コソコソ」隠れてやるモノだ。 もし社員同士で結婚したら、どちらかが辞めるか、転勤になるのが常識だ。 仕事への影響云々は「華僑の会社」には全く関係ないことなのかもしれない。

また、俺は参加したことがなかったが、社内で時々パーティーが行われていた。 そしてそのパーティーの模様がビデオに撮られ、社内天井の至る所に取り付けられているテレビにて放映されていた。 酔っ払っている様、男女が抱き合って踊っている様、下半身をすり合わせ踊っている様が、一日どころか1・2週間ほど毎日放映された。 これは盗撮でもなければ、スキャンダルビデオでもない。 このような破廉恥なビデオが「会社の意志」で放映されていた。

会社の方としては「この航空会社は『オープンな、良い会社』、楽しいパーティーも催されてますよ!」というのをアピールしたいのだろう。 俺は吐き気を催しそうだった。 普通ならこんなビデオを放映された日には、恥ずかしくてもう仕事ができない。 しかし意外と参加者には会社の幹部などが多く、また幹部に媚びる下っ端CA等が参加していた。

何千人もいる職員の中で、こんなアホらしいパーティーに参加していたのはほんの一部だろう。 多くのCAは顔をしかめて、放映が終わるのを「静かに」待っていた。

スチュワーデスも香港在住
香港が拠点の会社なので、CAの殆どは香港に住んでいる。 俺がこの航空会社にいた当時は、少数ではあるがカナダ西海岸のバンクーバーに住んでいた華僑CAもいた。 こういったCAは「バンクーバー・ベース」クルーと呼ばれた。 同じ華僑でもバンクーバー・ベースのCAはちょっと雰囲気が違っていて、垢抜けていた。 カナダで育った彼女達は「本物の英語」を話し、小さい事にはこだわらず、俺は彼女達との仕事はとてもやり易かった。 しかし嫉妬からだろう、アジア華僑CAの中は「あいつらは我がままだ」「なんか変だ」などと嫌う者も多かった。

現在はどうか知らないが、俺が在職中には「バンコク・ベース」や「ロンドン・ベース」、そして「成田・ベース」ができる、との「噂」が頻繁に飛び交ったが、いずれも実現しなかった。 もし「成田・ベース」ができていたら、俺は辞めなかったかもしれないし、多くの日本人CAも香港を嫌っていたので「成田・ベース」は魅力的だったようだ。

日本人CAは全員香港に住んでいたので、香港での話が中心になる。 別の章には「香港の略歴」も紹介してあるので、それを参照すれば解り易いかもしれない。

スチュワーデスのお仕事
出勤
始めにまず家を出る。 出勤方法もひとそれぞれ。 黄埔花園(Whampoa Gardenワンポアガーデン)など、CAの多く住む地域には決まった時間に来るこの航空会社の無料送迎バスを利用する者も多い。 その他、タクシーを利用したり、バス、電車や地下鉄、人によっては船など人それぞれ。

空港が啓徳空港(カイタク空港)から遠い赤鯔角空港(チェクラプコク空港)に移転したあとは、俺も含む大半のCAにとってはダイブ通勤に不便になり、時間も大幅に掛かるようになった。 そこで登場したのがエアポートエクスプレス(機場快綫)。 もちろんこれは観光客などの利用者がほとんどだ。

この航空会社の本社は空港に近くにあるので、無料送迎バスに乗らないのなら、出勤経路は観光客とほとんど同じだ。 もちろん、会社の近くに着てからは、観光客とは別方向に行き、そこから顔を会わせるのはこの航空会社の職員がほとんど。

俺はできるだけ職場につくまで、同じ会社の人間と会うのは避けたかったので、この航空会社の無料送迎バスをあまり使わなかった。 時間に合わせてバスを待つのも面倒だが、上司や知り合いへの挨拶なども面倒、愛想を振舞うのも面倒、職場に着く前に職場の気分を味わいたくない。

また、家を出る時は、殆どの職員は制服を着て出勤する。 ウェートトレーニング室以外に更衣室が無い会社。 そんな所でわざわざ会社で着替える者など皆無なのだ。 香港人はCAの制服姿に見慣れているのか、誰も気にしていない。 

ICAOカード
どんな出勤方法だろうと、その時、絶対忘れてはいけないのがパスポートとICAOカード(アイ・ケー・オー・カード)だ。

この航空会社は香港が拠点なので、国内便というものはなく、全て国際便だ。 だからパスポートは絶対必要。 そしてこのICAOカードというのは、空港に自由に出入りするためのカードだ。 これを胸からぶら下げるわけだが、これがないと空港に出入りすることができない。

パスポートは誰にでも取れるし、紛失しても自国の大使館や領事館に行けば再発行も難しくない。 しかしICAOカードは避難訓練・応急処置訓練を受け、テストに合格しないと、取ることができない。 これこそがパイロットやCAを含む、機内勤務者の命、ともいえる。

ICAOカードは見た目はチャチな、誰でも作れそうな写真付の単なるプラスチックの板。 大きさは銀行カードやクレジットカードくらいだ。 そんなものでも、中々侮れない。 これを紛失すれば、まず仕事ができない。 事務所からの執拗なお叱りを受け、膨大な書類を書かされ、再発行するまで長い期間待たされることになる。 その間は仕事ができないので、給料はなし。 書類や謝罪を怠ればクビになることもあるらしい。 そして再度、避難訓練等を受けなければいけない、ということだ。 幸い、物持ちの悪い俺でもICAOカードだけは紛失したことはなかったが、時々紛失するCAもいるらしい。 あんなチャチな作りのカードも、パスポート以上に大事なのだ。

俺はパスポートを家に忘れて、職場に向かったことが2・3回ある。 急いで家に取りに帰るが、間に合わない場合は勤務から外される。 そうなった場合は、当然1・2週間後には事務所から呼び出しを食らい、「経歴」として残る。 俺は全部間に合ったが、間に合わず勤務から外されるCAも時々いた。

打ち合わせ
通常、航空業界では「ブリーフィング」というが、簡単に言えば打ち合わせのこと。 出発の1時間30分ほど前に行われる。 この打ち合わせ前に必ずやらなければいけないことがある。 
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名簿があり、その名簿にはCAの名前、ランク、国籍、母国語などが書いてある。 名簿を見て、自分の名前を確認するが、その時他のCAの名前を確認し、憶えておかねばならない。 この航空会社では毎回違うCAと一緒に仕事をするから、毎回毎回「同僚」の名前を憶える必要がある。

俺は名前を憶えてもらっても、憶えてもらわなくて、全然気にならなかったが、女の嫉妬や自己顕示欲は男の理解の範疇を超える。 名前を憶えておかねば、「不敬」として扱われ、残り長い時間をイジメられたり、下手すると、後で「別の理由」で事務所に呼び出しを食らう。 だから必死で名前を覚える。 この勤務が終われば、もう会うことはないかもしれないし、バカバカしいがこんな事を毎回やらなければならない。

特に同じ国籍の場合はそれがもっと厳しい。 日本人の俺の場合に要注意だったのが、日本人+在日韓国人の両方憶えておかねばならなかったことだ。 在日韓国人は国籍欄には「Korea」とあるが、母国語には「Japanese」とある。 しかしこの航空会社の日本人CAの間では「日本人」として接するのが暗黙の了解であり、在日韓国人も日本人と一番仲が良かった。

名簿の確認の後、「○○号に乗る人達は××号室に集まって下さい」と放送があり、打ち合わせが始まる。 先ずはボスであるチーフパーサーの自己紹介から始まり、その次のランクへと続く。 「こんにちは。 私は日本から来た△△です」と簡単な自己紹介だ。 この間も、名前と顔が一致するように、一生懸命覚える。

時々、カナリ日焼けした日本人がいて、雰囲気も英語の話し方もどちらかというとマレー人のようだった。 名前と顔が一致しない。 俺はその人が最後まで日本人であることを思い出せず、勤務中はずっと英語で話していた。 フライトの最後の方になって、日本人であることを知り、日本語に切り替えた。 俺が話している間も、彼女は何か納得行かないような顔をしていたが、やはり「不敬」であったか…

*************************

自己紹介の後は、飛行機の行き先、乗客数、飛行時間、到着時間などの説明がある。 渡航先の国の事情の説明があり、時々質問も受ける。 例えば行き先が成田なら「日本の持ち込めないものは何か?」といった具合だ。 答えられないと、後々の人間関係にまで影響を与える時があるから、事前に勉強しておくのが理想的だ。

そして緊急避難や酸素ボンベ使用等に関する質問がある。 打ち合わせのときに一番緊張するのがこの時だ。 一番多かったのが、緊急避難についての質問だ。 「ドアが準備状態か確認」→「ドアを開ける」→「乗客を誘導する」→「自分も避難する」というのが基本的な流れだが、確か6か7段階位に分かれていた。 「避難させる」という行動自体は同じだが、「海上避難」「陸上避難」など幾つかに分かれ、飛行機の機種によって微妙に「単語」が違う。 この航空会社はボーイング社の飛行機と、フランスのエアバス社の飛行機を用いているが、双方の構造は違うからだ。

この流れを物凄く早口で言える人が時々いた。 学校で国語や英語の教科書を速く音読する類だろう。 この流れを憶えることは大事だが、早口で言っても余り意味がないどころか、かえって危険ではないか、と俺はいつも思っていた。 ゆっくり、しっかり言えた方が良いのではないか。 実際に飛行機が墜落して、意識が朦朧とし、生きるか死ぬか、という時になったら、うろたえて行動するのは危険だと俺は思ったのだ。

チーフパーサーの中には、この打ち合わせを「生きがい」にしているような人もいて、避難訓練や応急処置に関する事を細かく質問するのだ。 「過呼吸の症状は?」など、一応訓練では習ったが、細かな病気の症状を即答できる者は皆無だった。 しかし、今考えてみれば、俺ももうちょっと一生懸命勉強しておけば良かったと思う。 この航空会社を辞めたあと、高校の講師を経験したが、その時過呼吸で倒れた生徒がいた。 この航空会社の時に勉強したことが役に立つはずだったが、あまり憶えていなかった。 こういった応急処置というのは一般生活にも役に立つことが多いので、現役、またはこれからCAになる人達はしっかり勉強した方が良いと思う。 カネを貰って勉強できるのだから。

機内準備
全体の打ち合わせが終わると、今度は部署ごとの打ち合わせがある。 俺は新入りだったので、エコノミークラスが主だったから、エコノミークラスのボスであるセクションリーダーから、同僚とともに説明を受ける。 

「Check your area thoroughly. And…(自分の持ち場を綿密に調べて…)」とセリフはいつも決まっていた。

その後、飛行機に乗り込む。 乗客が搭乗する1時間前ほどだ。 俺達下っ端CAはサービス用のカート(スチュワーデスらが機内で押しているもの)にジュースや水などを入れたり、ドライアイスを入れたりする。 またトイレの乳液やオーディコロンの蓋を開けたりと、作業の一つ一つをとれば、何も難しいことはない。 

基本的に短距離航行、中距離航行、長距離航行の3種類に分けられ、サービスの方法が違う。 

短距離フライトは香港からなら台湾、マニラ。 中距離は日本、バンコク、シンガポール、ソウル等。 長距離は欧米や中東等。

行く距離や行く国により、多少並べるものが違ったりする。 例えば、インド行きならヒンドゥー教徒が多いので、菜食料理を多く用意する。 フランス行きならシャンペーンなどだ。 欧米などに行く長距離飛行では、現地に着く頃には朝になっていることが多いので、夜食と共に朝食も用意しておく。

また、飛行機の機種によって、モノが置いてある場所が違ったり、自分の持ち場の場所が違う。

このように、単純な作業が連なっているだけだが、ある程度先を読んで仕事をしなければならない。 これはどこの職場でも同じだろう。 ただ、まだ仕事に慣れないうちはこういった事を暗記するしかない。

俺は人一倍記憶力が悪く、グズだ。 一連の諸作業を手際よく覚えられず、慣れるまで緊張の連続だった。 他の訓練生は手際良くやっているように見えた。 今でも俺は単純かつ多くの作業をこなすのは苦手だ。 弁当屋とかで働いても、すぐにクビになるだろう。

下っ端CAがそんな作業をやっている間、セクションリーダー(またはEYパーサー)と呼ばれる持ち場の責任者はオーブンにパンを入れて温めたり、カートの中のお盆が足りているかをチェックする。

このセクションリーダーになるには最低でも4・5年ほどの経験が必要だ。 セクションリーダーといえば、聞こえは多少良いが、直訳すれば係長。 ペーペーに毛が生えた感じで、日本語に訳するとちょっと冴えない。 また、この間、機内清掃員が機内を掃除してくれる。

接客の下準備ができた後は、水かジュースでも飲んでちょっと一息。 この水やジュースを入れる、というのは通常はセクションリーダーがするが、ご機嫌取りに躍起な下っ端のCAがやることもある。

セクションリーダーがサービスの準備が終わったことをチーフパーサーに伝える。 そしてチーフパーサーが「安全検査を行ってください」とアナウンスで伝える。 自分の持ち場にある上のロッカーや座席の下、トイレのゴミ箱などを調べる。 武器や爆弾などが置かれているかをチェックするためだ。 

この「安全検査」というのに個人差がある。 上のロッカーをチェックと言うより、ただピョンピョン飛び跳ねているように見える奴も多い。 もし、機内清掃員の中にテロリストがいたりしたら、飛行機は一発で吹き飛ばされるだろう。 何しろ、機内清掃員には持ち物検査などないのだ。

ちなみに言うと、CAの持ち物検査も、空港によっては皆無に等しい。 安全上、どこの空港とは言わないが、拳銃・麻薬・爆弾、なんでも持ち込めそうな空港はたくさんある。 事実、時々だが麻薬・拳銃所持などで逮捕されるスチュワーデスが報道される。 こんなものは氷山の一角だろう。 映画に出てくるような、奇策に富んだハイジャックや爆弾テロなど必要ない。 CA、または機内清掃員一人と仲良くなれば良いだけだ。

とりあえず、「安全検査」が終わった後は、乗客を迎える。 乗客がスチュワーデスの妖艶な笑顔を見るときはこの時だ。 

搭乗から出発
俺にとっても乗客が入ってくる時が一番楽しみだった。 どんな国籍の人が来るのだろう、どんな美人が来るのだろう、と。 また他のスチュワーデスが重い荷物を上のロッカーに入れているのを手伝ったりした。 こういった力仕事でもしなければ、男である価値はない。 また、周りのスチュワーデスの機嫌を取るにも一番いい機会だった。 俺みたいに、この手の仕事を覚えるのが遅い男には、イイ所を見せる良い機会なのだ。 正直、一日中こんな事をやっていたかった。

その後、座っている乗客に毛布やヘッドフォン、新聞を配ったりした。 新聞も行き先や出発場所によりブランド名が違うので、ある程度は覚えておいた方が良い。 一度、中国人から英語で「アップル・デイリーをくれ!」と言われ、俺は戸惑った事がある。 「アップル… りんご? りんごの新聞? そんなのあるわけがないだろう…」 一応、周りにいた日本人のスチュワーデスに聞いてみた。 しかし彼女達も新人。 何の事か解らない。 客の所に戻って、ないことを伝えると、「ない訳がないだろう! 以前、この航空会社に乗った時貰ったんだ!」という。 

広東語の解るスチュワーデスを連れて来て、話を聞いてもらった。 そしたらすぐ話が通じたようで、「蘋果日報」という新聞を持ってきた。 これは香港の中国語新聞で、「ピングォーヤッポウ」と発音し、俺も見たことがある。 しかし、なんで「アップル」なんだ?

後で知ったのだが、「蘋果」とは広東語で「りんご」という意味だったのだ! なるほど、考えてみると「ピングォー」と「りんご」… 発音はちょっと似ているかもしれない。 なんで気付かなかったのだろう?! しかし、「ピングォーヤッポウ」と言ってくれればすぐ解ったのに… 「蘋果日報」を「アップル・デイリー」と呼ぶなら、「読売新聞」なら「リーディング&セリング・ニュースペーパー」、「産経新聞」なら「インダストリーズ&エコノミー・ニュースペーパー」、「朝日」なら「モーニング・サン」になる。 固有名詞なのになぜ名前が変わるのか? こんな事を俺が考えても何も変わらないので、とりあえずそのまま覚えることにした。

新聞などを配った後、緊急時の避難方法やトイレでは禁煙であること、などを大きな画面でビデオ放映する。 この間、CAも一緒に画面を見なければならない。 もし画面に映らなかった時は、CAが生でデモンストレーションをしなければいけないからだ。 そう頻繁ではないが俺も何度かやった事がある。

このビデオが終わると、ドアのチェックだ。 開いた時に滑り台が飛び出るようにする。 CA一人一人に自分のドアが決まっているが、それをチェックした後、向かいのドアもチェックしなくていけない。 終わったら親指を上げて合図する。 そして乗客が全員シーベルトを締めているのを確認する。 

この間にこの航空会社なら英語・広東語、そして行き先の言語のアナウンスが行われる。 日本に行くなら日本語、フランスに行くならフランス語、フィリピンに行くならタガログ語、といった具合だ。 通常、英語はチーフパーサーがやり、他の言語はチーフパーサー以外のCAがやる。 熟練のCAは他にもっと大事な仕事があるのか、このアナウンスは意外と下っ端のCAがやることが多い。 また、アナウンスには男が重宝される。 「男の声」が聞きたいらしい。 日本語が必要な場合、毎回と言って良いほど俺がアナウンスをやった。

日本線では必ず日本語アナウンスが行われるが、東南アジア、ヨーロッパに行く時も時々日本語アナウンスをやった。 また日本線同様、中東線や南アフリカ線では毎回日本語アナウンスをやった。 日本人乗客が多いからだ。 中東や南アフリカへは石油や金、ダイヤモンド等の商用で日本人の男が大勢乗り込む。 「天然資源」という巨大ビジネスをやりに中東やアフリカに向かう日焼けした日本人。 頭も良く、屈強そうだ。 俺は同じ日本人として誇らしく思えたものだ。

アナウンスが終わった後、自分達も座り、離陸となる。 この離陸と着陸の時が、一番事故が起こり易い危険な時間とされている。 だから離着陸においての避難訓練に最も重点が置かれる。 これについても後で詳しく述べる。 しかし、この「一番危険な時間」である離着陸の時に、寝ているのか起きているのか、目をつぶっているCAがいたり、乗客との話に熱中しているCAもいた。 本当は窓から外を見て、翼についているエンジンなどを注視する等、異常がないか見なくてはいけない。 かくいう俺も、実は居眠りしかけたり、乗客との話を続けてしまった事がある。

飛行中
離陸後、しばらくしたらパイロットが発信音と共に「禁煙」と「シートベルサイン」を点滅させ、「サービス開始」の信号を送る。 スチュワーデスはこのとき初めてエプロンを付ける。 先ず飲み物のサービスをし、その後食事のサービスをする。 香港―台湾線など、非常に短いフライトの時は同時にやることもある。

食事等のサービスが終わると、次は免税品販売。 これが面倒だった。 鍵を付けたり、売ったものを細かく記録したり… 高価なものが多いので、取り扱いにはかなり気を使わなくてはならない。 入社した頃にはセクションリーダーが主にやっていたが、途中で規則が変わり、下っ端のCAでもやらなければならないようになった。 

販売価格表示は香港ドル、米ドルそして日本円だったと思うが、他の通貨でも買えるので、客が使う通貨に為替相場を換算しなくてはならない。 これが少し緊張した。 計算間違いは許されない。 日本円・香港ドルの計算間違いならすぐ気付くが、あまり知らないような通貨であれば、間違いを起こしたかすら判らない。 免税販売は責任が大きいので、責任の分散のために、下っ端CAにもやらせるようにしたのだろう。

休憩時間はCAも余った機内食を食べる。 エコノミークラスで仕事をしてても、ビジネスクラスの余り物をよく持って来てくれた。 多くのCAはビジネスクラスの食事を好むが、俺はエコノミークラスの食事の方が好きだった。 ビジネスクラスの方が良い素材を使ってあるのだろうし、高価なのかもしれない。 しかし、食い物は値段に比例するとは限らない。 1万円の食事より、400円のラーメンの方が美味いことだってある。 東南アジア人のCAが手を付けようとしないエコノミークラスの食事を、俺が一人で喰って腹一杯になっていた。

欧米線など、長いフライトになると仮眠時間が与えられる。 この航空会社なら全ての飛行機に仮眠室がある。 通常は2段ベッドで、横幅1mくらいの狭いベッドだ。 薄い毛布一枚で寝るので、時々寒いときもある。 仮眠時間は長くても2〜4時間くらいだったと思う。 俺はほとんど寝たことがない。 子供の時から寝つきが悪いため、イキナリ「ハイ、寝ていいですよ」と言われても眠れない。 通常、ビジネスクラスかファーストクラスに置かれている「ハネムーン・シート」とか「ハネムーン・ルーム」と呼ばれるカーテンで遮断・隔離された小部屋があり、そこで本を読んだりしていた。 飛行機によっては「ハネムーン・ルーム」がないものもあるので、そんな時は「ギャレー」と呼ばれるCAの作業場で読んだりした。

この「ハネムーン・ルーム」の存在は一般人には殆ど知られていない。 文字通り、新婚向けの部屋だが、セックスを始められるのが困るのか、若いカップルがいても知らせる事はないし、実際にそこに乗客がいるのを見たことがない。 俺も「一度は恋人とこの部屋を利用してみたい」、と悶々としたものだ。

本を読まない時は、他のCAと話したりする。 運が良い時は可愛い女性乗客と話をしたりして、「有意義」な時間を過ごした。 スチュワードの格好をしていると、乗客の女の子は驚くほど警戒心を解く。 制服のパワーだろう。 簡単に電話番号をくれるし、渡航先で会ったりもした。

入社当時、この航空会社のフライトで唯一喫煙が許されていたのが「日本線」だった。 トイレは禁煙で、通常は飛行機の後部が喫煙地帯だった。 乗客もタバコを吸うが、休憩時間はCAも吸う。 俺も喫煙者なので、こんな日本線が好きだったが、心のどこかで「喫煙を客に見られるのは恥ずかしい」と思っていた。 CAには灰皿がないので、透明のプラスチックのコップに水を入れて代用していた。 しかし入社して一年後、全線が禁煙となった。 残念であったのと同時、少しホッとした。

実際に色々と起こるのはこの「飛行中」だ。 乗客がトイレでタバコを吸い始めたり、吐いたり、倒れたり、CAに痴漢行為をしたり、CA同士のトラブルがあったり、イジメがあったり… と、閉鎖された空間で「怖い事」がたくさん起こる。 こういったことも後で詳しく述べる。

着陸
着陸の少し前になると、長距離線などでは朝食を出したりするが、通常は使ったワインやその他のアルコール飲料の数を数えたり、カートを片付けたり、と後片付けに入る。 パイロットが現地の天気や到着予定時間などをアナウンスで知らせた後、機内をぐるぐる回り、乗客からゴミを回収したり、ヘッドフォンを回収したりする。 着陸の最終段階では、離陸時と同様、各言語でのアナウンスをし、乗客全員のシートベルト着用を確認し、自分達の席に座る。

着陸後はドアのチェック。 今度はドアを開けても滑り台が出ないように設定する。 地上職員が外からドアを開けて入って来た時、滑り台が飛び出したら、トンでもない事になるからだ。 本当は飛行機が完全に静止するまで乗客は立ってはいけないが、乗客はそんな事は知らない。 立とうとする乗客も少なくないので、注意しなくてはならない。

その後、去っていく乗客に挨拶をし、上のロッカーや座席の後ろのポケット(シートポケット)に忘れ物や怪しい物がないかチェックする。 あと、座席の下なども調べるが、離陸前のチェックとは違い、着陸後のチェックはカナリいい加減だ。 到着後には機内清掃員が入ってきて、掃除をしてくれるので「自分には余り関係ない」といったところだろう。

一応、自分のホテルの部屋に入るまでは「勤務中」となっている。 しかし乗客がいなくなった後、時々パイロットなどはファーストクラスの開封済みワインを機内で飲んだりしていた。 やはり後ろめたいのか、パイロット達は「共犯」を作る為にCAにも飲ませたりしていた。 俺はワインではなく、本当はビールが飲みたかった…!

現地にて
現地にはCAやパイロット用のバスが待機しており、空港からホテルまで送ってくれる。 通常、CAやパイロットの宿泊するホテルはかなり良いホテルだ。 シェラトン、シャングリラ、ヒルトン、ハイヤット… 皆が聞いたことあるような有名ホテルばかりだ。

俺はそれまで高級ホテルに泊まったことがなかったので、ホテルに関して不満を持ったことはなかった。 しかし、年配CAやパイロットなどでは不満を持つ人がよくいた。 贅沢に育ったのか、それとも単に不満が多い人達なのか… 身分不相応な待遇も、慣れてくると当たり前になり、不満が出てくるのだろう。 ちょうど、野球選手が「年俸4000万円は少な過ぎる」などと言っているのと同じだ。 それにしても、野球選手はなぜあんなに給料が高いのか本当に謎だが、航空会社職員のホテルがなぜあんなに高級なのかも謎だ。

ホテルに到着したら、「アローワンス(allowance)」と呼ばれる、要するに「小遣い」を貰う。 これはCAのランクに関わらず、全員同じだ。 正確な額は憶えていないが、福岡に一泊する時は1万円以上は貰っていたと思う。 福岡のホテルに到着するのは夜の9時か10時くらい。 次の日の朝8時には出発だ。 カネを使う暇もない。 そんな短時間の滞在に1万円以上もくれるとは、航空会社も太っ腹だが、これにも不満を持つ人間はいる。

今考えてみると、それだけ俺も金銭感覚が麻痺していたのだろう。 当時、生きる目的も無く、酒と女と冒険の3つの快楽しか頭になかった俺は、月何十万もある給料や小遣いを軽く使い果たしていた。

CAの時間の過ごし方は人それぞれ違うので一概に言えない。 しかし、ブランド品を買ったりする者はほとんどいない。 ほとんどのCAはかなりケチで、旅行すらしないCAが大半だ。

宿泊先に同国籍のCAがいない時には、部屋やホテルから全く出ない者だっている。 日本人なら「このフライトには他に日本人がいないから…」と外出をしないのだ。 食事も現地でするどころか、わざわざ香港からカップラーメンを持ってきて、ヨーロッパのホテルで食べる等のケチぶり。 機内食を持ち出す、なんていうのは当たり前だ。 

しかし、上に挙げたのはまだ可愛いもんだ。 聞いて身の毛がよだつような話もあった。 これらの事については後で詳しく述べる。







僕が客室乗務員だったときの話 | Comment(4) | TrackBack(5) | 香港 ☁
この記事へのコメント
 はじめまして!f_simと申します。トラックバック、どうもありがとうございました。

 私はフライトシム専門なので、キャビンの事は良く知りませんが、同じ「飛行機好き」として、これからもよろしくお願い致します。

 以上、取り急ぎトラックバックの御礼まで。
Posted by f_sim at 2006年08月25日 18:23
コメント有難うございます。 丹念に動画を作るなんて感銘です。 僕も動画を作ってみたくなりました。

いつでも遊びにいらしてください。 また僕も遊びに行きます!
Posted by 藤原 at 2006年08月27日 22:30
いつも楽しく拝見させていただいております。かく言う私は外資の会社に勤めながらキャセイのCAを目指しております。私の知り合いにも元キャセイのお友達がいるのですが、その人がやめた理由は先輩からのいじめと、日本人ビジネスマンの理不尽なコンプレにほとほとあきれ果てたというものでした。このような話を伺うと大変不安にはなりますが、どうしても一度の人生世界中を旅できるキャセイで働いてみたいのです。
今月号のエアステージにはキャセイの新しく入ったCAの特集が組まれていますね。
Posted by banana milk at 2006年12月01日 17:14
>友達がいるのですが、その人がやめた理由は先輩からのいじめ
>と、日本人ビジネスマンの理不尽なコンプレにほとほとあきれ
>果てたというものでした。
イジメなどの人間関係はどこの職場でもある典型的な退職理由でしょうね。 僕にとっての人間関係は日本のほうが難しいものとなってしまいましたが。 日本の会社で上手くやっている人が本当に羨ましいです。

>今月号のエアステージにはキャセイの新しく入ったCAの特集が
>組まれていますね。
ごめんなさい。 「エアステージ」って雑誌かなんかですか?

キャセイ合格を心から祈ります。 僕の入社当時とは状況が違うかもしれませんが、少しでも参考になれば幸いです。
Posted by banana milkさんへ、藤原より at 2006年12月03日 17:24
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